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【書評】欧州航路の文化誌

「欧州航路の文化誌」  橋本順光・鈴木禎宏 編著            青弓社 2017年刊


2021年11月16日に「昭和天皇の修学旅行―1921年のヨーロッパ外遊」というテーマでご講義していただいた橋本先生が、レジュメでも紹介されていた著書です。

講義でも、イギリスの東洋航路を逆転して日本が欧州航路を発展させていく経過が紹介されていましたが、そのような概論とシンガポール、ペナン、コロンボ、などの各寄港地にもそれぞれ一章を割いて詳しく紹介されています。


文部省唱歌「海」は、

  海は広いな 大きいな

  月がのぼるし 日が沈む

で始まり、 

  海にお舟を浮かばして

  行ってみたいな よその国

と異国への誘いで締めくくられる。


これは、明治時代から船が貿易と軍事の要であり、子供たちに海国日本という自覚を促し、海に未来と可能性があることを強調する国策に沿っている。

このような国策のため、幸田露伴も海洋文学が発展することを願う一文を発表しているが、なかなか優れた海洋文学は日本では花開かなかった。

しかし、洋行者が発表した数多くの旅行記がこれに替わるもう一つの海洋文学だったと言う著者の視点は面白く感じた。


また、1879年に官費留学生制度が確立し、大学卒業→留学→大学教授というコースが生まれ、戦前の大学助教授にとって洋行がほとんど義務となっていた。

しかし、欧州航路が日本の船で日本人船長・船員で運行されるようになり、また大学教育が日本語で受けられるようになった結果、欧米の大学に留学し学位を取得することが念頭におかれていた制度は、徐々に洋行によって学識と見聞を広げることが目的となっていく。すなわち、「造詣深キ学者ニシテ日常会話ニ不馴」な大学教官が生まれてきたという一節は興味深い。


また洋行の体験から書かれた和辻哲郎の「風土」についても、一章を割いて論じられています。

その他にも興味深い話題が多いので、一読をお勧めします。



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